[37] 鼓形ウォーム&ヘリカルギヤ設計システム


37.1 概要
   鼓形ウォームギヤは,ヒンドレーウォームギヤ(カタログ[36])に代表されますが,ホイール歯形の複雑さからヘリカルギヤをホイールとした鼓形ウォームギヤがあります.鼓形ウォームギヤは,円筒ウォームギヤに比して同時かみ合い歯数が多く,且つ,ホイールの歯たけ方向のかみ合い接触線を持つことから潤滑や歯面強さに対して非常に有利といえます.本ソフトウェアは,鼓形ウォーム×ヘリカルギヤを設計することができるソフトウェアです.
   ウォームギヤの体系は,以下に示すように大別することができます.
(1) 円筒ウォームギヤ
   (1.1) 円筒ウォームギヤ,24頁
   (1.2) Niemann worm gear,99頁
   (1.3) ウォーム×ヘリカルギヤ,19頁
   (1.4) LCCWウォーム×ヘリカルギヤ,119頁
   (1.5) 傾斜ウォームギヤ,97頁
(2) 鼓形ウォームギヤ
   (2.1) ヒンドレーウォームギヤ,117頁
   (2.2) 鼓形ウォーム×ヘリカルギヤ,119頁
(3) 内歯車ウォームギヤ
   (3.1) 樽形ウォームギヤ,127頁

   ウォームギヤと言えば,(1.1)の円筒ウォームギヤのことですが,ホイールがプラスチック歯車の場合,(1.1)円筒ウォームギヤの代用品として(1.2)の円筒ウォーム×ヘリカルギヤが大多数を占めます.しかし,この歯車は,点接触であるため負荷容量の増大を望むことができませんが,これを解決するのが(2.2)鼓形ウォーム×ヘリカルギヤであると考えています.鼓形ウォーム×ヘリカルギヤは,円筒ウォーム×ヘリカルギヤに対し,同時かみ合い歯数が 多く(円筒ウォームの2~3倍),また,歯たけ方向のかみ合い線接触であるため負荷容量は増大し,且つ,潤滑に有利です.なお,ホイールはインボリュートヘリカルギヤをそのまま用いることができ,円筒ウォームギヤの諸元や中心距離に合わせた設計が可能です.そのため,円筒ウォーム×ヘリカルギヤの中心距離を変更することなく円筒ウォームを鼓形ウォームに変更するだけで済みます.
   本ソフトウェアは,上記(2.2) 鼓形ウォーム×ヘリカルギヤの歯車寸法計算,歯形計算,強度計算をすることができ,歯形はCADデータとして出力することができます.

37.2 ヘリカルギヤ諸元入力
   図37.2にヘリカルギヤの諸元入力画面を示します.入力範囲は,0.1≦mn≦50, 10≦z2≦500, 5°≦αn≦30°, 0°<β≦20°です.図37.2のヘリカルギヤ諸元を確定すると,寸法を図37.3のように表示します.


37.3 ウォーム諸元入力
   図37.4に鼓形ウォームの諸元入力画面を示します.条数の入力範囲は,1≦zw ≦3です.中心距離は,理論値の他に,円筒ウォーム×ヘリカルギヤで設計した中心距離を設定することも可能ですので軸間距離を変えることなく鼓形ウォーム×ヘリカルギヤに変更することができます.


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   図37.5に鼓形ウォーム寸法を示します.円筒ウォーム×ヘリカルギヤのかみ合い率 ε=1.71 に対し,本例の鼓形ウォーム×ヘリカルギヤではε=5.34となり約3 倍に増加します.また,諸元設定完了後,図37.6に組図を作図することができますので,鼓形ウォームの歯幅や全体のバランスを確認することができます.


37.4 歯形計算
   鼓形ウォームの歯形分割数を図37.7で設定します.ここで設定する分割数で生成する鼓形ウォームの歯形の細かさが決まります.また,ウォームにクラウニングおよびウォーム歯先修整を与える場合は,図37.8で設定することができます.

   歯形計算後の鼓形ウォームとヘリカルギヤの3Dかみ合いを図37.9および図37.10に示します.図37.9は,クラウニングを与えていないかみ合いのためウォームの両端部で接触線を観察することができます.一方,図37.10は,ウォームにクラウニング(解り易くするため大きなクラウニング)を与えているため4歯の接触線となっています.


37.5 歯形出力
   生成した歯形をCADデータとして出力することができます.図37.11で出力した歯形の作図例を図37.12に示します.


37.6 強度計算
   鼓形ウォームとヘリカルギヤの強度計算画面を図37.13~37.15に示します.歯車材料は,図37.13a に示すようにウォーム,ヘリカルギヤ共に8種類から選択することができ,且つ,任意材料記号を設定することができます.また,図37.14では任意の許容応力値を設定することができます.

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37.7 円筒ウォーム×ヘリカルギヤとの比較
   図37.16の円筒ウォームギヤおよび図37.17の円筒ウォーム×ヘリカルギヤの歯当たり接触は2歯のかみ合いに留まっていますが,鼓形ウォーム×ヘリカルギヤの接触線は,図37.10および図37.18に示すように歯たけ方向に4歯(クラウニングを与えている)接触しています.このことから,鼓形ウォーム×ヘリカルギヤの歯の負荷容量は,接触線および接触歯数から考えて円筒ウォームギヤや円筒ウォーム×ヘリカルギヤより大きいと言えます.そのためウォームの歯幅を図37.18のように12.5mmと小さくしても3~4歯がかみ合いますのでコンパクトな設計が可能です.
   また,ウォームギヤは滑りを伴う運動のため歯面間の潤滑油膜の形成が重要です.円筒ウォームギヤの場合,歯当たりは,ホイールの歯すじ方向に伸びるため歯当たりの回転方向の出口側の潤滑が危険な場合がありますが,鼓形ウォーム×ヘリカルギヤの接触線は歯面の滑り方向に対して,ほぼ直角です.そのため,潤滑油膜の保持に非常に有利です.
   鼓形ウォームの歯形は複雑であるため円筒ウォームに比して加工が容易ではありませんが,本ソフトウェアから生成するCADデータを用いてマシニングセンタで容易に加工することができます.


37.8 鼓形ウォームの製作例
   図37.19に示す鼓形ウォーム品は,インボリュートヘリカルギヤに合わせて設計し,マシニングセンタにより鼓形ウォームの歯形を加工したものです.なお,ヘリカルギヤは,プラスチック材料(POM)のため歯厚を大きくしています.


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37.9 歯たけ方向に線接触を持つ円筒ウォーム(オプション)
   一般の円筒ウォーム(図37.16 及び図37.17)と以下に示す歯たけ方向に線接触を持つ円筒ウォームは,どちらも外径は円筒形状ですのでこれを区別するため,歯たけ方向に線接触を持つ円筒ウォームギヤを,LCCW(Line Contact Cylindrical Worm Gear)と名付けます.
   上述した鼓形ウォームは両側面部でも接触するため同時かみ合い歯数は多くなりますが,同時かみ合い歯数が3以上あれば良いということであれば,外径を鼓形にする必要はなく円筒でも十分であると考えることができます.
   そこで,図37.4の「形状」設定で,ウォームの形状を図37.20で円筒形として設定し,計算した結果を以下に示します.その結果,図37.21のようにウォームの外径は,円筒となり,歯当たりは鼓形とほぼ同様に同時4 歯接触していることが解ります.また,図37.22に示す円筒ウォームのCAD作図例のように外径が円筒形であることから転造による製造が容易であると考えることができます.


37.10 ホイールが平歯車の場合
   ホイールを平歯車とした場合の計算例を図37.23~37.25に示し ます.ホイールがヘリカルギヤの場合,ホイールの歯幅中央に接触線を確認することができますが,ホイールが平歯車の場合には, 接触線はホイール歯幅の下方に寄っていることが解ります.


37.11 オプション
(1) LCCW,(2)歯当たり(予定)

37.12 LCCWに期待するもの
   大型のウォームギヤもLCCWとして製作できるものと考えていますが,小型でホイールがプラスチック歯車として使用される用途に期待しています.現在,図37.17 に示す円筒ウォームとプラスチックヘリカルギヤは,自動車用の補機や小型モータ減速用として数多く使用されていますが,円筒ウォームとプラスチックヘリカルギヤは,点接触であるため大きな負荷容量を望むことができません.この円筒ウォームとプラスチックヘリカルギヤの負荷容量を大きくするために切削や射出成形によるプラスチックウォームホイール(図37.16)が実用化されていることもありますが,ウォームホイールを射出成型で製造するためにはホイールの金型精度や多額のコストを要します.
   そこで,インボリュートヘリカルギヤの諸元を変えずにそのまま用い,円筒ウォームをLCCWとすることにより歯車箱の大きさを変更することなく負荷容量の増大を望むことができます.

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